++NO.15++

「わかった、ありがとう」
電話を切った良知君が僕等の方を振り向く。
「Four Topsの斗真が治樹を店のそばで見かけたらしい」
Four Tops?
何の事だろう…と思っていたら
「ここと同じ系列の店だよ」
と、島田が教えてくれた。
「あそこならそんなに遠くないじゃん」
友一君が一哉君に「よかったな」と笑いかけた。
「…とりあえず、急いで向かおう」
良知君の声に全員が立ち上がった。
++ ++ ++
「一体、どの辺にいるんだろう」
一哉君が心配そうに呟く。
「…斗真はなんて?」
尋ねる島田に良知君は首を振る。
「ものすごい怖い顔で真っ直ぐ歩いてった、とだけ」
「…喧嘩するつもりなのか?」
友一君が呟く。
「だったら、人気のない場所だよなぁ」
島田が続ける。
なんだか不安がつのる僕は必要以上にキョロキョロしてた。
…あれ?
「ねぇ、あそこ。あそこに歩いてるの…治樹君じゃない?」
かなり遠くからだけど…あの人影は治樹君だ。
「治樹やッ」
そう叫ぶと一哉君は走っていく。
「ちょ、待てよ!!」
慌てて追いかける僕等。
「治樹!!!」
一哉君の声に気がついて、顔を上げた治樹君。
「うわッ…」
友一君が絶句するのも無理はない。
治樹君の顔は、殴られた痕がくっきり残ってる。
口の端は切れて、血が出ていた。
「あぁ…なんでもない」
友一君の視線に気がついたのか、袖でグイッと口元を拭う。
「お前なぁ…勝手にいなくなんじゃねぇよ。心配すんじゃねぇか」
睨む島田に治樹君は少し肩を竦める。
「言うたらお前等ついてくるやんか」
「そりゃそうだろ」
「そしたら誰が店やんねん」
「それは…」
「それにな…」
治樹君はニヤっと笑って続ける。
「こういうカッコええ役は俺にしか出来へんやろ?」
「…ふざけんなよ」
島田も笑う。
…えっと、僕何が何だかよくわからないんですけど。
「…ねぇ、一体何があったの?」
尋ねる僕に、
「たいした事やないんや。幸人は心配せんでもええって」
と、治樹君は言うけど…
「知りたいよ、僕。だって、こんなに心配したのに…」
そう言うと、それまで黙っていた良知君が口を開いた。
「治樹。一度しか言わない。勝手な行動はするな。一人で何でも解決しようとするな。たとえ頼りなくても、俺に相談して欲しい。クビにしてくれ、だなんて…もう、二度というなよ」
辛いじゃないか…。
そう言った良知君に、治樹君は黙って頭を下げた。
「それから、幸人クンも言うとおり、皆心配したんだ。何があったかちゃんと説明してもらうよ?」
「…わかった」
「…じゃあ、とりあえず店帰るか」
島田が言う。
歩き出した僕等の後ろで、一哉君の声が聞えた。
「…治樹、ゴメンな。痛いやろ?…僕のせいや」
少し震えた声。泣いているのかもしれない。
そんな一哉君に、治樹君は少し笑って答えた。
「あほか。殴られたのは、俺が油断したせいや。」
お前のせいなわけないやろ。
二人の会話に、くすぐったいくらいの暖かい友情を感じた。
思わず島田に話しかける。
「ねぇ、島田」
「ん?」
「僕達さぁ…」
「何?」
「今までもこれからもずっと友達だよね?」
「はぁ?突然何言ってんの、お前。」
おかしいんじゃねぇの?
そう言ってさっさと行ってしまった…。
…友情って儚いモノなんだなぁ。
++ ++ ++
結局、一哉君を脅迫していたのは一哉君のお客様の恋人だった。
「一哉の客で、前に嫉妬深い彼氏がおるって言うてたヤツがいたのを思い出したんや。ここ数日姿見てないし、アヤシイなぁ思うて。で、そいつに連絡して問い詰めてみたら、彼氏に一哉に会うたらあかんって脅された言うてて…」
間違いない、と核心したらしい。
「連絡先聞いて、カマかけて、「お前がやってんのはわかってんねんで」って言うたら、向こうから話があるって呼び出してきたんや。来ないと店つぶすぞって」
「お前、そこで「つぶせるもんならつぶしてみぃや」とか言ったんだろ?」
島田が笑う。
「…なんで、わかんねん」
「そりゃ、わかるだろ」
友一君も笑う。
「それで!!!続きは?」
先が気になる僕としては、笑っている場合じゃないんだよね。
「で、聞きだしたら一哉にかなり嫌がらせしてたみたいやったから、これは1回シメとかなあかんな、思うたから会いにいったんや。で、俺が油断して2発殴られて…」

治樹君の反撃で相手は気を失ったらしい。
とりあえず、治樹君とは喧嘩しないようにしよう。
「とにかく、もう安心や。二度とすんなって念押してきたし」
「…ホンマに、ゴメンな。僕のせいや」
やっと口を開いた一哉君に、治樹君が言う。
「お前のせいちゃう。お前に悪いところがあったとすれば…俺に相談せぇへんかった事だけや」
そう言って、とても優しく微笑んだ。
…今まで、お客様相手にだってそんな顔見た事ないや。
「一哉」
良知君が呼ぶ。
「はい…」
「もう、辞めるだなんて言わないよね?」
優しく問いかける良知君に一哉君は小さな声で答えた。
「…でも、僕迷惑かけたし」
「でもね、一哉。一哉はこの仕事にとても向いてるんだよ」
良知君の言葉に、一哉君はハッと顔を上げた。
「向いて…る?」
「そう、一哉の笑顔に癒されたくてココに来るお客様がいっぱいいる。一哉の笑顔で救われていくお客様が大勢いるんだよ。なのに、今一哉が辞めちゃったらその人達はどうするの?」
「…店長」
「だいたいさぁ、彼氏を嫉妬させて脅迫されちゃうなんて、俺ですら経験ないよ」
すごい才能なんじゃない?
友一君が笑う。
「ホスト冥利につきるよな」
島田も一哉君の肩をポンっと叩く。
「…皆、ありがとう。でも…ホンマに続けてもええのかな?」
弱気な一哉君に、僕は思わず大声で叫んでしまった。
「今、一哉君が辞めたら、治樹君が可哀想じゃないか!!」
「…幸人君」
「だって、一哉君の為に喧嘩までして…そうまでして、一哉君に続けて欲しいと思ってるんだよ?それなのに…」
「…そうやね。幸人君の言うとおりや。ゴメンな、治樹」
「別に、」
少し照れたように笑う治樹君。
「それにしても、お前。その顔じゃあしばらく客はとれねぇな」
友一君が意地悪そうに言う。
「その間に俺がNO1だな」
島田もニヤっと笑う。
そんな二人に治樹君は二人以上に不敵な笑いで答えた。
「あほ、ハクがついてより一層オトコマエやろ」
…治樹君には口でも絶対勝てない気がする。
でも、一哉君に心配かけないようにしてるんだな、って伝わってくる感じ。
やっぱり、友情って素晴らしい。

その日の帰り、島田と並んで歩きながら、僕は島田にたずねてみた。
「ねぇ、もし僕が脅迫されてたら…島田喧嘩しに行ってくれる?」
「俺の顔殴られたらお客さん哀しむじゃん」
…そうかもしれないけどさぁ。
少しふくれた僕からちょっとだけ前に出て、島田はボソッと呟いた。
「…だから、一撃で倒してやるよ」

…やっぱり友情っていいなぁ♪

その後、嬉しくて島田の背中に向かって猛ダッシュして飛びついた僕は、島田に文字通り「一撃」で道路に倒された。
…島田、冷たい。

*********
お待たせしました〜!!!第15話ですv
もう、わけわかりません(爆)。
無理やり事件を起して無理やり解決しようとするからこうなるんですよね〜(苦笑)。
でも、とりあえず仲間の絆さえしっかりと書けていれば…。
途中、店長の台詞でそのまま店長に問い掛けたいのもあり(痛)、書いてて少し凹み気味な今回でしたが、次回からはまたくだらないお話に戻ります(笑)。頑張って幸人にNO1を目指してもらわないとvv

<< TOP                                 << BACK   NEXT >>