++NO.32++

お店に戻ると、もう皆指名が入ってて…
「あれ?幸人、直樹と同伴??」
なんて、友一君にからかわれたり。
全く、何もかも島田が悪いんだけど…
当の島田はチエさんにボトル入れてもらって上機嫌になっている。
「はぁ…」
溜息をついて、僕は部屋へと向かう。
「幸人君、お帰り」
ちょうど、指名が切れて部屋に戻ってきた一哉くんが話しかけてくれた。
「僕、出遅れてる?」
聞くと、
「うーん、そうでもないよ?まだ、挽回できる余裕あり、ってところやね」
そう言って、一哉くんはニッコリと笑う。
「そんなん気になってきたなんて、幸人君ももう一人前のホストやね」
「そうかな、」
うん。確かに、そうかもしれないな。
「僕、段々成長してる?」
「すごい勢いで成長してるんちゃう?」
僕なんか、もう追い抜かれてしもうたわ。
笑って一哉くんは部屋へと入ろうとすると…
「一哉さん、9番ご指名です」
「あれ、めずらし〜。続けてやなんて」
負けてられんし、頑張るわぁ。
一哉君は、じゃあ、と手を上げてテーブルへ向かっていった。
クリスマス。特別な日。
そんな素敵な日に、僕等に会いに来てくれるお客様。
店長に言われた事がなんとなく、わかってきた。
「よし。頑張ろう!!」
ギュっと握り拳。
「幸人さん、6番ご指名です」
待ってました!!!
「は〜い!!」
元気よく、僕は飛び出した。
閉店までの時間、僕の指名も途切れる事もなく…
クリスマスだからいっぱいボトルも入れてもらえて、プレゼントもいっぱい貰って。僕に出来るお返しといえば…笑顔しかないけど。
僕の笑顔で、少しでも幸せになってもらえるなら。
初めて働いた日…治樹君が言ってた。
『笑顔と幸せ』
それだけ?って言った僕に
「それが一番難しいんやで?」
と笑っていってた。
あの時は、よくわかってなかったけど…
今はちょっとだけわかる。
僕の笑顔で、お客様の気持ちが左右されるって事は、とっても重大な事だ。
よく島田にも言われてたけど…僕は自分の気分が出やすいし。
ブスっと脹れて、よくお客様に慰められている。
『幸人君はそこがかわいいの〜vv』
なんて、お客様に言われてるけど…
「もうちょっと、自覚持たなきゃダメか」
閉店後のミーティングの為に集まった時に、思わず皆の顔を眺めて呟いてしまった。だって…
「何?なんか言った?幸人」
治樹君に尋ねられ…
「ん、別に。ただ…」
「ただ?」
「皆、いい顔してるなぁと思って」
プロって感じ。キラキラ輝いてる感じ。そりゃクリスマスっていう大事な時間に会いに来たくなる様な、素敵なオーラがビシバシ飛び散っている。
「…熱でもある?」
治樹君が僕のおでこにおでこをくっつける。
ちょっと…お客様の気分になっちゃった。
「かっこいいね、治樹君」
呟いた僕。
治樹君はギョッとした顔で僕から一歩引いた。
「なんや…キショイで、幸人」
なんとかせぇや、直樹。
島田を振り向き、訴える治樹君。
…失礼な。褒めてるのに。
「なんとも出来ねぇよ。コイツがおかしいのは今始まった事じゃねぇもん」
ケケっと笑う島田。
…またしても失礼な。僕、おかしくないって。
「はいはい。ミーティング始めるよ!」
パンパン、と手を叩いて、店長が言った。
「もう、25日になっちゃったね、イブも終わっちゃったけど…クリスマスだから、今日は早めに切り上げよう」
ニッコリと笑う店長。
…良知君って、やっぱり素敵だな。
ボーっと見つめていると、
「幸人君…あんまり見つめないでくれる?」
なんだか、やり辛いから。
苦笑する良知君。
「お前、ホント変だぞ?」
ボソっと横から島田に言われた。
…確かに、僕、ちょっとお客様の気分に浸りすぎ。
だって、よく言うじゃない。相手の立場になって考えなさいって。
お客様の立場になったら、もっともっと成長できるかなぁって…。
「ゴメンなさい」
一応、謝っておこう。
結局、今日の売り上げは治樹君が1番。直樹が2番。
「出遅れた分が痛ぇよな」
あ〜あ、と島田が思い切り伸びをする。
「本当の人気は、特別な夜にわかるもんなんやで?」
ニヤリと笑った治樹君。
「言ってろ。すぐに引きずり降ろしてやっから」
ニヤリと笑い返す島田。
「楽しみにしてるわ」
そう言って、治樹君は立ち上がる。
「さて、じゃあ皆さん素敵なクリスマスを!」
行くぞ、一哉。
出て行く姿をまたボーっと見つめてしまった。
どうして、こうも皆カッコよく決めれるんだろう…。
「じゃ、今日はこの辺で」
お疲れ様。
ニッコリと笑う店長。
「帰るか」
島田に言われて頷き立ち上がる。
…と。
「あ、幸人君ちょっと」
良知君に呼ばれた。
「何?」
「うん。ホラ、クリスマスだから。幸人君、すごく頑張ってくれたし。だからね、サンタの代わりといってはなんだけど…」
プレゼント。
そう言って、店長は僕の手にリボンのかかった箱を握らせた。
「え??」
「僕の目に、狂いはなかったっていうお祝いでもあるんだ」
絶対、幸人君ならいいホストになると思ってた。
「だからね、一人前のホストになった記念もかねて、ね。特別だよ?」
そう笑って、店長は手を振っていってしまった。
「何?なんか貰ったの?」
後ろから、僕の肩越しに島田が覗き込んでくる。
「うん…貰っちゃった」
「なんだよ、お前だけかよ」
ちょっとだけ苦笑する島田。
「あけても…いいかな?」
首だけ振り返って島田に聞く。
「俺に聞くなよ。つーか、あけてみれば?」
笑う島田に促され、リボンを解いた。
「あ!!!」
時計だった。
それは、とっても高級そうで…
「うわ、すっげぇ」
島田の呟き。
「え?凄いの??凄いの??」
思わずビビってしまった僕に
「だって…それ、ROLEXのエクスプローラーじゃん。しかもアンティーク」
言われても全然わからないんですけど…
「何?どういう事??」
高いの??
尋ねた僕に…
「高いのって…150弱って感じ?」
「ひゃ…ひゃ…」
思わずどもってしまう。
「店長、ずるいなぁ〜。お前だけ。ま、いっか」
ホラ、俺とお揃いだな。
そう言って、島田はニヤリとスーツの袖を捲ってみせた。
そこには…
「し、し、島田!!??」
同じように輝く時計。
「『直樹君、クリスマスプレゼント〜♪受け取ってvv』っていうからよ」
…って、お客様からって事??
「ま、頑張れよ。新人」
ニヤリと笑い、あ!と思い出したように付け加える。
「それ、きっと店長からのメッセージ」
「何?メッセージ??」
「そ、「遅刻すんなよ」って事じゃね?」
ケラケラ笑う島田に、一瞬固まった僕は…
「島田のせいでしょ〜!!!!!」
と怒鳴り返すまでに、時間がかかってしまった。
負けない!!!絶対に負けないんだから!!!
絶対NO.1になってやる〜!!!


その頃…

「ずるいよ〜!!店長〜!!俺にはないの??」
「五月蠅いなぁ〜!!!あげたでしょ」
「何??何くれた??」
「さっき、お客様と飲んでるときに…」
「あれはお客様にボトルじゃん!!!俺にぢゃないぢゃん!!!」
「似たようなもんでしょ。ほとんど飲み干したんでしょ?」
「そ、それは…」
「だったら、いいでしょ。はい、お疲れ〜!!」
「わ〜!!!待って!!!せめてご飯食べさせて〜!!」
「何、誰か来てくれないの?クリスマスなのに」
「…ほっといて」
「ホストのクセに〜」
「いいんだよ!!ほっといてよ!!誰か一人選ぶと悪いでしょ?」
だからさぁ〜
「ご飯食べさせて」
店長の家で。
「全く、毎年毎年甘えるんじゃないよ、もうッ!!」
今日は、SARIさんと会うのに…
「店長のご飯が食べたい〜!!!」

幸人にプレゼントを渡した事がばれた店長が石田に捕まって困り果てていた。

「クリスマスなんて…」
思わず溜息が出てしまった良知だった。








*********
時期的にね。
って事でクリスマスなんですけども。
本当はもっと引っ張って、色々皆様とのクリスマスを…とも考えていたのですが、あまりにも時期がずれたので、クリスマスは彼等のみで終わらせてみました。
あ…最後にちょっとだけお名前お借りしました、SARIさん〜。えぇ、事後承諾ですけども(笑)。
また、随所で、事後承諾でお名前借りる事が多々あると思いますが…いいわよ〜って方は事前にお知らせ下さい(笑)。

さてさて。それにしても、高級すぎて金銭感覚がわかりません(爆)。
ROLEX欲しい〜(爆)。


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