+第8話+ 「良知君!!」 何度も、何度も呼びかける。 それでも良知君の目は開く事はない。 このまま良知君が消えてしまいそうな気がして思わずぎゅっと抱きしめる。 「良知君…起きてよ!!!」 その時、背筋に悪寒が走った。 凍りつくような視線。確実に感じられる気配。 振り向いてはいけない…。 そう思った。振り向いたら、最後のような気がして… それでも、振り向かずにはいられなかった。 勢いよく振り向いた俺の目の前は黒い霧に覆われたようだった。 「なんだよ、コレ!」 一瞬ひるんだ俺に微かに声が聞こえてくる。 「ジャ…マ、…キ、エ…ロ、ジ…ャマ…」 邪魔…?消えろ?? 何の事なのか、必死に考える。俺のことが邪魔なのか?俺に消えろって言ってんのか? 一体、何が起きてるんだ?? その間、霧が徐々に形を作っていく。 蹲る人の形のような塊になり…ゆっくりと起き上がる。 顔と思われる部分に赤く光る二つの眼。 「ジャ…マ、…」 射貫くように見つめられ身動きが出来ない。 黒い影はゆっくりと近づき俺の首に手をかけた。 ゆっくりと締付けられる感触。 少しずつ力が加えられていく。 息が…出来ない。 「クッ…」 抗うにも力が入らない。 でも…良知君だけは離さない様に…放してしまったらもう戻ってこない気がした。 黒い影は更に力を強めていく。 意識が遠退きかけた時、影の口元がニヤリと笑うように裂けたのが見えた。 ++ ++ ++ 階段を駆け登り、3階を目指す。 「ったく、なんで3階なんかに住んでんだよ」 八つ当たりとはわかっていても、思わず口にしてしまう。 「島田…急がなきゃ」 後ろから萩原に言われ、 「わかってるよ」 と答えて先を急ぐ。 なんとかドアの前に辿りつき勢いよく開ける。 「石田!!良知君!!」 叫んでみても返事はない。 急いで中に入り、部屋を探し歩く、とそこには… 「石田!!!」 黒い影に掴まれ、意識を失いかけている石田がいた。それでも、良知をしっかりと掴んでいる。 掴まれてる良知は…死んだようにグッタリとして、そして透き通るように白かった。 「何アレ…」 呟く萩原を残し、島田は駆け寄った。 「石田!!!」 影から引き離そうと石田を良知ごと引っ張る。 影はものすごい力で石田を掴んでいるらしく、いくら引っ張ってもビクともしない。 「ちくしょうッ!!」 懇親の力を込めて引っ張ったとき、島田も後ろから引っ張られた。 「萩原?」 「二人の方が、力が出るでしょ?」 「サンキュ…」 二人で、一斉に力を込めて引っ張る。 すると、ゆっくりと石田の体が影から引き離されて… 「ゲホッ…」 呼吸を再開する事が出来た石田が軽く咽た。 「石田!!」 島田の呼びかけに 「しま、だ…?よか、った…」 間に合った… そういって、石田はそのまま崩れ落ちた。 「島田ぁ…どうしよう!!」 おろおろした萩原の声。 「石田は大丈夫。気を失っただけだ。とにかく良知君を」 萩原の方を振りかえり、答えた島田に向かって… 「島田!危ない!!」 と、萩原の叫びも虚しく、影が島田を捉えた。 「くッ…しまった」 何とかもがく島田。 「島田ぁ!!」 島田を助けようと駆け寄りかけた萩原に 「俺はいいから…とにかく良知君を起こせ!!」 そうすれば、助かるはずだ!! 「良知君、を?」 理解しきれていない萩原に、島田が再度叫ぶ。 「とにかく、良知君を起こしてくれ!!」 「わかった!!」 萩原は名前を叫んだり揺すったり…とにかく必死で良知を起こそうとするが、やはり一向に眼を開けない。 「…しかたない。良知君、ゴメンね!!!」 そう言って、萩原は思いきり良知の右頬を叩いた。 「ん…」 微かに良知が反応する。 「島田!良知君、動いた!!」 「その調子だ…とにかく、眼を…覚まさせろッ」 その間にも影は島田の首を締付け始めていた。 「良知君!!!ホントゴメンね!!」 また一発。 「ん…」 眉を寄せ、まぶたがピクっと動いた。 「良知君!!良知君!!!」 萩原は叫びながら良知を揺すりつづけた。 「う…ん、」 ゆっくりと意識の戻る良知。 そして…ゆっくりと消えゆく黒い影。 「…あ、れ?は、ぎわら…?」 良知が意識を完全に取り戻した頃には、影はすっかり消えていた。 「よかったぁ…」 思わず声にした萩原の頭を島田の手がクシャっと撫ぜた。 「萩原、よくやった」 助かったよ… 「島田ぁ、僕、よくわかんないんだけど…」 一体、どういう事? 尋ねる萩原に 「後でゆっくり説明してやるよ」 そういって、萩原の手から良知を抱えあげ、ベッドの上に寝かせなおす。 「良知君、具合どう?」 「…ちょっと、気持ち悪い。力が抜けきってる感じがする」 そう答えた良知は、自分の足元あたりに倒れている石田を見て驚いた。 「石田!?どうしたの?」 「あぁ、そうだった」 そういって、島田は石田も引っ張りあげると良知の横に寝かせた。 「何か…あったの?」 意識のない石田を目の当たりにして、心配そうに良知が呟く。 聞かれた島田は少し難しい顔をして、 「…とりあえず、何か飲み物買ってくる。説明はそれからだ」 そういって、萩原を部屋に残し、近くのコンビニへと向かった。 確かに、喉がカラカラに乾いている。 でも、出かけた理由はそれだけじゃなかった。 一人で、ゆっくりと考えたかったのだ。 影に掴まれたあの瞬間。 確かに、聞こえてきた。 『邪魔ヲ…スルナ』 ヒトツニ… 間違えなく、聞こえてきたのだ。 影の悲痛な叫びが…。 ************* 第8話です! えー、いってた通り、引き伸ばしました(爆)。 だってぇ、終わらせたくなかったんだもん(笑)。 でも、ちょっとわけわかんなくなってきた(ぇ)。しかも、伸ばしたところでそんなに長さ変わらないかも(ヲイ)。とりあえず、10話は超えたい…。 「ヒトツニ…」って所、最初「ヒトツニ…ナリタイ…」って書いたんだけど、ある意味爆弾発言チックだったので止めました(爆)。 それにしても、殴って起こすなんて、さすが萩原さんです(爆)。その起こし方は「良知君大好き」いっちゃんには出来ない方法だわ(笑)。 << TOP << BACK NEXT >> |