+第9話+

遠くで…誰かの声が聞こえてくる。
ゆっくりと眼を開ける。しばらくボーッと天井を見つめる。
まだ、視界はぼやけてて、はっきりとしない。
声は、まだ聞こえてくる。
「何が……だろ?」
「僕も…わかんない…けど…」
誰の、声…だろう。
少しずつ、意識が覚醒していくにつれ、声も近くなってきた。
「でも、良知君の…」
あぁ、そうか。俺、良知君の家に来て……………って!!
「良知君!!」
跳ね起きた俺に、二つの人影が同時にビクっと跳ね上がった。
「石田!大丈夫??」
駆け寄ってくる良知君。
「あ、っていうか、それ俺の台詞」
思わずそう答えた俺に、良知君は少し申し訳なさそうな顔をする。
「ゴメン…心配かけたみたいで」
自分でも…よくわかんないんだけどね。
そう困ったように笑う良知君。
そういえば…
「なぁ、島田は?」
萩原がいるのに、島田が居ないわけがない。
それに、最後に島田に助けられた事を思い出した。
あいつが、来ていないわけがない。
「なんか、コンビニ行ってくるって」
萩原が答える。
「コンビニ?」
「そ、喉、乾いたって言ってた」
…なんか、あったのだろうか。
きっと、島田には何かわかってきたのかもしれない。
だから、あえて一人になって考えようとしてるんだろう…。
そう思っていると…
「石田…石田は、何か知ってるのか?」
良知君が真剣な顔で尋ねてきた。
「え?何が?」
「俺の…事。俺、倒れてたんだろ?その間に…石田とか、島田が得体の知れないモノに襲われてたって…萩原が言ってた」
「萩原、良知君に話したの?」
島田から…言うなって言われなかった?
責めるように睨むと…
「だって…僕、なんにも説明受けてないもん!」
開き直る萩原。
ま、仕方ないか。
「や、俺もよくわかんないんだけどさぁ」
とりあえず…
「良知君の…影が関係してるみたい」
そういうと、良知君は目を丸くした。
「影?影がどうしたんだよ?」
「…や、だから俺もよくわかんないんだよ」
堂堂巡りな会話を繰り返していたら…
「ただいま」
玄関で島田の声がした。
「お帰り〜」
パタパタと萩原が走りよる。
「お菓子、買ってきてくれた?」
小首をかしげる萩原に
「これでも食っとけ」
と、ケーキを手渡す島田。
後ろでキャッキャと喜ぶ萩原をよそに、島田は難しい顔で部屋に入ってきた。
「あれ、石田…目ぇ醒めたのか?」
「あぁ…ゴメン、迷惑かけて」
「や、別に…」
そういって、島田は床に座ると缶コーヒーを3つ取り出す。
「あれ、3つだけ?」
尋ねた俺に
「あぁ、あいつは…」
と、コーラのペットボトルを取り出す。
またしても、それを手に取りキャッキャとハシャぐ萩原。
そんな萩原に
「それ、やるから大人しくしとけよ」
と、忠告し、島田はゆっくりと話始めた。
「よく…考えたんだけど。多分、これが一番納得のいく考えかな…と思う。良知君も…石田も、落ち着いて聞いてくれ」
その言葉に、俺も良知君も黙って頷いた。
「まず…良知君には、まだ言ってなかったけど…事の発端は、石田が視線を感じるっていうところから始まった。それは、良知君がよく倒れるようになるのとほぼ同時期で…良知君と一緒にいると、石田はどこからか、殺気を帯びた視線を常に感じるようになってた」
「…それで、いつも調子悪そうだったのか」
良知君の言葉に、申し訳なさそうに頷く。
「で、この間。皆で飯食いにいった時、萩原が気づいたんだ…」
「良知君のね、影がなかったの!!」
よく、気がついたでしょ?偉い?偉い??
と、フォークを振りまわす萩原を
「大人しくしとけ。じゃなきゃ取り上げるぞ」
と一喝して、島田が続ける。
「俺は…その話を聞いた時、視線の正体は良知君の影なんじゃないかと思った。不思議な…ありえない話ではあるけど…そう考えると、全てが繋がるような気がしたんだ」
説明を聞く間、良知君はとにかく目をパチパチさせて驚いてる。
「そうしたら、その日、石田が良知君を連れて家に帰ったら、黒い霧のような影が現れたっていうし。間違いなく、影が動き出していると思った」
そして、今日の事件だ。
そこまで言って、島田はコーヒーを一口飲んだ。
俺も一口飲んで、気を落ち着かせて質問をする。
「ちょっと、まってよ。どうやって、影が動き出したんだよ」
そういうと、良知君も頷いている。
「俺も…理解出来ないんだけど」
島田はもう1度コーヒーに口をつけ、ゆっくりと答えた。
「多分…憶測に過ぎないけど…良知君の生気を吸い取ってるんじゃないかと思う」
「はぁ?」
思わず、声をあげた俺を、島田は一瞥して、良知君に向かって問いかける。
「良知君…最近、体ダルくない?それに、時々意識を失ってるでしょ?倒れたりして。だからといって、目が醒めてしまえば、別に、具合が悪いわけでもない…。病気…というわけでもない。…ただ、ダルイだけ。そうでしょ?」
島田の勢いに圧倒され、良知君は微かに頷く。
「う…ん、そう、だけど」
「それって…やっぱり生気を吸い取られてるんだと思う。だから、良知君が意識を失っている時…影が現れるんだよ。生気を吸い取って、意思を持ち始めた影が動き出すんだ」
島田の説明は…多分、正しいだろう。
でも…それじゃあ
「どうして…俺は影に襲われるんだ?」
納得がいかない。どうして俺は良知君の影に襲われるのか…
「それは…多分、嫉妬だ」
「はぁ???」
今度こそ、わけがわからない。
なんで、俺が影に嫉妬されるのか…
「俺…聞いたんだよ。影が…黒い影が…「邪魔をするな…ヒトツに…」って言ったのを」

「確かに、俺も「邪魔」って言われたけど」
「おそらく、影は生気を吸い取って実体化し始めた。そうする事で、良知君と切り離されてしまったわけだ。自ら離れて、客観的に観るうちに、良知君を愛しく思えてきた。愛しさのあまり、1つになりたい。そう思ったんじゃないかな。自分から離れたくせに、良知君と1つになる事を望みはじめたんだ。や、1つに…というか、多分良知君になりたくなったんだと思う。で、自分はこんなにまで良知君を望んでいるのに、中々手に入らない。なのに、石田はいつでも良知君の傍にいた。それが、影にとっては邪魔だった。石田がいるから、自分は良知君と1つになれない、と思ったんじゃないか。現に、良知君になろうと意識を乗っ取るたびに、石田が良知君の意識を取り戻してしまう。影にとって…石田は邪魔な存在なんだよ」
一気に説明する島田に呆気に取られた俺は…ただ、呆然と島田を見つめていた。
「だから、影はお前を殺そうとした」
「殺す…?」
良知君が呟く。
「…良知君のせいじゃない」
呟く島田。
「でも…俺の影が…」
「違う、良知君の影ではあっても…意思を持ち始めたなら、それは別人だ」
良知君じゃ、ない。
「…俺、どうすればいい?」
良知君が問いかける。
「とにかく…良知君が影に打ち勝たなくちゃ…。影に生気を吸い取られないように…」
具体的には…どうすればいいのかはわからないけど。
申し訳なさそうに、島田が答えた。
「とにかく、良知君が一人にならないようにすればいいんじゃないの?」
ケーキをすっかり食べ終わった萩原が言う。
「…そうだな。とりあえず、俺達がついてるから」
島田の言葉に、俺も強く頷いた。
「俺も。だから、影なんかに負けんなよ!俺も絶対負けない!!」
そういうと、良知君は微かに笑う。
「ありがと…皆。俺、負けないように頑張る」
すっかり、衰弱しきった良知君の笑顔に…
俺は、決心した。
絶対に…良知君を助けてみせる。




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第9話です!
ははは…なんだかなぁ(笑)。
石田、あんたはそんなに良知が好きか(爆)。ってな感じになってきやしたが…。
や、でも設定上、いっちゃんは良知のことを大事な親友!と思ってくれていなければ進まないんですよね(苦笑)。だいたい、影に嫉妬されるくらいまで仲良くしてくれないと、話が進まない(笑)。
今回、説明回でした。とりあえず、次回はまた山場に突入…予定(ぇ)。
それにしても〜vv島田がカッコイイ〜♪すっかり私ヴィジョン(笑)。あぁ…足蹴にされてもいい…この際、ゆっちんになりたい(爆)。


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