+第6話+

「迎えに来たって…そう言ったの?」
良知君に尋ねられ、ゆっくりと思い出してみる。
確かに…眼が覚める寸前、声がしたのだ。
『迎えに来たの。だから…』
「もう、置いていかないで…って」
そう、聞えた。
答えた俺に、良知君はコーヒーを一口飲み、眉間に皺を寄せる。
「…それって、危険じゃないかな」
「え?」
「迎えに来たって事は…島田を自分と同じ場所へ連れて行こうとしてるって事だよね」
「同じ…ところ?」
石田がハっと顔を上げる。
「それって…死の、世界って事?」
小声で呟いた石田に良知君は深く頷いた。
「今日、島田がずっと眠り続けてしまったのも…」
何か、関係があるのかもしれない。
考え込む良知君。
…確かに、そうかもしれない。
さっき、眼を覚ました時…体が妙に重い感じがした。
徐々に…意識も薄れていく感覚。
でも…それよりも、俺には気になってる事があった。
「置いていかないで…か、」
呟いた俺に、石田が顔を向ける。
「どうしたの?何か、思い出した?」
「や、もう、置いていかないでって事は…」
前に、置いていってしまった事があるって事だよな。
独り言のように囁いた俺の言葉に、良知君が頷いた。
「きっと、そうだと思う。…何か、覚えはない?」
「…わかんねぇ」
項垂れた俺に、良知君は続ける。
「今日はさ、俺の家に泊まったら?また、何か夢を見るかもしれないし…」
すぐ、傍にいた方が様子もわかるし…
そんな良知君の言葉に、甘える事にした。
次、眼を閉じたら…2度と開く事が出来ないかもしれない恐怖。
考えもしなかった恐怖が次々と襲いかかってくる。
「島田ぁ、元気出せよ…」
らしくねぇって。
石田が肩を叩く。
「サンキュ、」
つい、素直に出てきた言葉に石田が大袈裟に驚いてみせる。
「めずらし、島田がお礼言ってるよ」
「うるせぇ、」
笑ってしまった俺に、石田が言う。
「頑張れよ、負けんじゃねぇぞ」
そして、立ち上がり良知君に向かって
「俺、ちょっと用事あるから先行くわ…ココ、ごちそうさまッ」
と、言って帰っていった。
「全く、いっつもタカるんだから」
苦笑した良知君が俺を見る。
「じゃ、帰ろっか?」
頷くと、良知君が俺の頭に手を置く。
いつも、思う。
良知君の手は…とても暖かい。
「…良知君って、暖かいね」
突然発した俺の言葉に、良知君はビックリした顔で俺を見る。
「めずらしー、やっぱ素直な島田って…変だよ」
そう笑って俺の頭をグシャグシャにする。
「止めろよ、」
笑いながら、その手をよけて顔を上げると…
「あれ…?」
店の外に、萩原の姿が見えた。
「は、ぎわら?」
思わず呟いた時、

『ずっと…一緒だよ
              忘れないで…今度こそ、』

頭に、ダイレクトに伝わる言葉。
瞬間、軽い眩暈がした。
++ ++ ++
誰かが…横たわっている。
その横に、一人の少年。
誰、なんだろう…
近づいてみる。
1歩1歩近づくにつれ、速くなる鼓動。
横たわっている少年の顔を覗く。
「う、わッ…」
それは…俺だった。
死んだように眠る俺の横に、寄り添うようにたたずむ少年。

『約束、守ってね…一緒だよ、ずっと
              …ずっと、友達でいてね』

そう言って振り向いた少年に…

                            顔は無かった。



*****
お〜!!第6話ですvv
結構早めの更新vv今回、この最後のシーンが書きたくて、急いで書き上げました(笑)。
予定では、10話くらいで終わるつもりだったんですが…。
ヘタすると、終わらないですね(汗)。
自分の中では、この「囁き」、結構好きだったりするんですけど…読んでくださってる方的にはどうなんでしょうか?はっきり言って…暗いですよね(爆)。

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