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『忘れよう、それが一番いいよ』

昨日の石田の言葉。
本当に、忘れる事が一番いいのだろうか。
バイト先で、良知は妙な胸騒ぎを覚えていた。
MDを壊したからといって、それで全てが解決したのか?
               (違う!!)
仕事が…手につかない。
 (怖い…)
何が?何が怖いのだろう。
             (ノイズが)
そう、ノイズ。あのノイズが頭から離れない。
  (裏切るな…)
(そうだ…)
              (一体何を、)
「良知君!!」
突然の声にビックリして顔を上げると、そこには石田が居た。
「何、やってんの?」
尋ねると、石田は呆れたような顔で良知を見た。
「それ、こっちの台詞。今日は上がりが早いバイトだから、買い物行こうねって約束したでしょ」
(あぁ…)
「ごめん、忘れてた」
「ひどいなぁ〜良知君。とにかく、もう終わりでしょ?」
聞かれて時計を見る。
「あれ、もうこんな時間だったんだ」
今日は昨日と違って、時間の早いバイトだった。
図書館でのバイトは、考え事をするには最適だった。
静かだし、邪魔もされない。
昨日のように、コンビニのバイトは深夜までの労働が多かったが、こっちは夕方には片付くバイトだった。
夢の為に、お金を貯める。その為には、バイトの掛け持ちも、同居も当たり前だった。
「ほら、買い物行こうよ」
石田の言葉に、頷くと帰り支度を始める。
「すいません、上がります」
声をかけて、図書館をあとにする。
「良知君さ」
歩るきながら、石田が話しかけてくる。
「何?」
「図書館で、ずっと考え事してたでしょ」
(…なんで)
「そんな事…」
「俺さ、途中からずっとあの図書館に居たの気付いてないでしょ」
(え?)
「居たの??」
「ほら、やっぱり…」
「だって、石田が図書館だなんて珍しい」
目を丸くする良知に石田は少し脹れてみせた。
「だってさ…心配だったらか」
     (石田も…気になってたんだ)
「石田…やっぱり島田のMD確認したい」
そう告げると、石田は黙って頷いた。
しばらく無言で歩き続けていると、思い出したように石田が言った。
「とりあえずさ、新しいMD買ってあげるよ」
約束だしね。
そう笑った石田に、良知はいいよ、と手をヒラヒラさせた。
「別に、いいよ。なくても困らないし。それに…」
「それに?」
「…しばらくは、聴く気になれない」
押し黙ってしまった良知の肩を、石田はポンっと叩いた。
「じゃあ、夕飯の材料だけ買ってこう」
そう言って、笑った。
++ ++ ++
夕飯の支度をしていると、チャイムが鳴った。
「あ、来たかな?」
そう言って、石田はドアを開ける。
さっき、店先で石田は島田に連絡を取っていた。
「お邪魔します」
やはり島田だった。
「あ、美味そう〜」
台所の夕飯を覗いて、島田が言う。
「もうすぐ、出来るから」
応えると、
「食べてっていいの?」
と返ってきた。
「もちろん」
笑って応えた。
ちゃんと…
    (笑えて、たか?)
妙な胸騒ぎは…ずっと取れない。
(怖い…怖いよ)
何かが、起きている。
                            (何が?)
わからない。でも…
食事の支度を終え、良知もテーブルに着く。
「頂きます」
石田も島田も黙々と食べている。
「あの、さ」
一口も食べる事無く、良知は口を開いた。
「何?」
「MD…の事だけど」
石田が箸を置く。
「良知君…とりあえず、食べた方がいいよ」
「食べる気分じゃないんだ…」
(とても、食べられない)
「良知君…」
「島田…MD、持ってきてくれた?」
「え?ああ…うん」
そう言って、島田はポケットに手を入れ、MDを取り出した。
「でも、これが何か?」
不思議そうな島田。
「何か、変な音入ってなかった?」
「音??」
「そう、雑音みたいな…」
            (ノイズ…)
「や、何も入ってなかったけど」
(まさか…)
                (いや、でも…)
          (俺だけ?)
「聴いてみても、いい?」
頷く島田から、MDを受け取り、コンポへと近づく。
「何??何かあったの?」
まだ、詳しく何も聞いていないのだろう島田が、石田へ尋ねていた。
「や…何ていうか」
返答に困る石田をよそに、良知はMDをかけた。
暫く聞き進める。
「何も…ないね、」
石田が呟く。
「ね?何もないだろ?」
島田が言う。
それでも…

                        (…聞こえる)
「微かに…」

「え?」

 (聞こえてくる…)
「聞こえるよ、石田」
「良知君?」
「ホラ…聞こえる」
「え??何が??」
「こっち、来てみろって」
二人がコンポに近づく。
「ほら、よく聴いて…」
スピーカーに耳を当てる二人。
そして、息を飲んだ。
「ホントだ…」
「おかしいよ…こんな音入ってなかったって!!!」
島田が言う。
「じゃあ、この音は何だよ!!!」
石田が叫ぶ。
「やっぱり…」
良知が呟いた。
       (呪われてる…)
「俺達が…」
「どういう、事なんだよ!!!」
島田は石田を問い詰めた。
「や、実は…」
一瞬…良知は背筋がゾクッとするのを感じた。
何かが…
         (今…入った)
                              自分の中に入ったような…          
一気に寒くなる。
「ら、ちくん??」
顔色、悪いよ?
島田の声。
「顔、真っ青だよ!!!!良知君!!!!」
石田の声。
すごく遠くに聞こえる…。
肩を揺すられてる。
でも、自分じゃない気がする…

    (こ、わい…たすけ、て…)
何が?
                              (何が…怖いんだ?)
その時、突如スピーカーから声がした。

「裏切るなんて、許さない」

低い、地を這うような男の声。

次の瞬間、悲鳴が聞こえた。
甲高い、女の人の、断末魔のような叫びが。

「良知君!!!!!!」


それが、
                    (こ、わい…)
             まさか、

      自分の口から発せられたモノだなんて…

  (助けて…)


想いもしなかった。



そして


               意識は



                                 途切れた

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第参話です。
今回もお昼に書いてみました(笑)。
大好きですね、ホラーって。
実は、これよりも先に見つけ屋更新しようと思ってたんですけど、気分的にホラーなき分だったもので(苦笑)。
…ちゃんとホラーになってるかな?
久しぶりに一話分が長い感じがする。気分が乗ってたんですね、きっと。決して改行とかスペースでかせいだわけではないとは思うんだけど(苦笑)。