第参話 | back | next | index |
『忘れよう、それが一番いいよ』 昨日の石田の言葉。 本当に、忘れる事が一番いいのだろうか。 バイト先で、良知は妙な胸騒ぎを覚えていた。 MDを壊したからといって、それで全てが解決したのか? (違う!!) 仕事が…手につかない。 (怖い…) 何が?何が怖いのだろう。 (ノイズが) そう、ノイズ。あのノイズが頭から離れない。 (裏切るな…) (そうだ…) (一体何を、) 「良知君!!」 突然の声にビックリして顔を上げると、そこには石田が居た。 「何、やってんの?」 尋ねると、石田は呆れたような顔で良知を見た。 「それ、こっちの台詞。今日は上がりが早いバイトだから、買い物行こうねって約束したでしょ」 (あぁ…) 「ごめん、忘れてた」 「ひどいなぁ〜良知君。とにかく、もう終わりでしょ?」 聞かれて時計を見る。 「あれ、もうこんな時間だったんだ」 今日は昨日と違って、時間の早いバイトだった。 図書館でのバイトは、考え事をするには最適だった。 静かだし、邪魔もされない。 昨日のように、コンビニのバイトは深夜までの労働が多かったが、こっちは夕方には片付くバイトだった。 夢の為に、お金を貯める。その為には、バイトの掛け持ちも、同居も当たり前だった。 「ほら、買い物行こうよ」 石田の言葉に、頷くと帰り支度を始める。 「すいません、上がります」 声をかけて、図書館をあとにする。 「良知君さ」 歩るきながら、石田が話しかけてくる。 「何?」 「図書館で、ずっと考え事してたでしょ」 (…なんで) 「そんな事…」 「俺さ、途中からずっとあの図書館に居たの気付いてないでしょ」 (え?) 「居たの??」 「ほら、やっぱり…」 「だって、石田が図書館だなんて珍しい」 目を丸くする良知に石田は少し脹れてみせた。 「だってさ…心配だったらか」 (石田も…気になってたんだ) 「石田…やっぱり島田のMD確認したい」 そう告げると、石田は黙って頷いた。 しばらく無言で歩き続けていると、思い出したように石田が言った。 「とりあえずさ、新しいMD買ってあげるよ」 約束だしね。 そう笑った石田に、良知はいいよ、と手をヒラヒラさせた。 「別に、いいよ。なくても困らないし。それに…」 「それに?」 「…しばらくは、聴く気になれない」 押し黙ってしまった良知の肩を、石田はポンっと叩いた。 「じゃあ、夕飯の材料だけ買ってこう」 そう言って、笑った。 ++ ++ ++ 夕飯の支度をしていると、チャイムが鳴った。 「あ、来たかな?」 そう言って、石田はドアを開ける。 さっき、店先で石田は島田に連絡を取っていた。 「お邪魔します」 やはり島田だった。 「あ、美味そう〜」 台所の夕飯を覗いて、島田が言う。 「もうすぐ、出来るから」 応えると、 「食べてっていいの?」 と返ってきた。 「もちろん」 笑って応えた。 ちゃんと… (笑えて、たか?) 妙な胸騒ぎは…ずっと取れない。 (怖い…怖いよ) 何かが、起きている。 (何が?) わからない。でも… 食事の支度を終え、良知もテーブルに着く。 「頂きます」 石田も島田も黙々と食べている。 「あの、さ」 一口も食べる事無く、良知は口を開いた。 「何?」 「MD…の事だけど」 石田が箸を置く。 「良知君…とりあえず、食べた方がいいよ」 「食べる気分じゃないんだ…」 (とても、食べられない) 「良知君…」 「島田…MD、持ってきてくれた?」 「え?ああ…うん」 そう言って、島田はポケットに手を入れ、MDを取り出した。 「でも、これが何か?」 不思議そうな島田。 「何か、変な音入ってなかった?」 「音??」 「そう、雑音みたいな…」 (ノイズ…) 「や、何も入ってなかったけど」 (まさか…) (いや、でも…) (俺だけ?) 「聴いてみても、いい?」 頷く島田から、MDを受け取り、コンポへと近づく。 「何??何かあったの?」 まだ、詳しく何も聞いていないのだろう島田が、石田へ尋ねていた。 「や…何ていうか」 返答に困る石田をよそに、良知はMDをかけた。 暫く聞き進める。 「何も…ないね、」 石田が呟く。 「ね?何もないだろ?」 島田が言う。 それでも… (…聞こえる) 「微かに…」 「え?」 (聞こえてくる…) 「聞こえるよ、石田」 「良知君?」 「ホラ…聞こえる」 「え??何が??」 「こっち、来てみろって」 二人がコンポに近づく。 「ほら、よく聴いて…」 スピーカーに耳を当てる二人。 そして、息を飲んだ。 「ホントだ…」 「おかしいよ…こんな音入ってなかったって!!!」 島田が言う。 「じゃあ、この音は何だよ!!!」 石田が叫ぶ。 「やっぱり…」 良知が呟いた。 (呪われてる…) 「俺達が…」 「どういう、事なんだよ!!!」 島田は石田を問い詰めた。 「や、実は…」 一瞬…良知は背筋がゾクッとするのを感じた。 何かが… (今…入った) 自分の中に入ったような… 一気に寒くなる。 「ら、ちくん??」 顔色、悪いよ? 島田の声。 「顔、真っ青だよ!!!!良知君!!!!」 石田の声。 すごく遠くに聞こえる…。 肩を揺すられてる。 でも、自分じゃない気がする… (こ、わい…たすけ、て…) 何が? (何が…怖いんだ?) その時、突如スピーカーから声がした。 「裏切るなんて、許さない」 低い、地を這うような男の声。 次の瞬間、悲鳴が聞こえた。 甲高い、女の人の、断末魔のような叫びが。 「良知君!!!!!!」 それが、 (こ、わい…) まさか、 自分の口から発せられたモノだなんて… (助けて…) 想いもしなかった。 そして 意識は 途切れた □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 第参話です。 今回もお昼に書いてみました(笑)。 大好きですね、ホラーって。 実は、これよりも先に見つけ屋更新しようと思ってたんですけど、気分的にホラーなき分だったもので(苦笑)。 …ちゃんとホラーになってるかな? 久しぶりに一話分が長い感じがする。気分が乗ってたんですね、きっと。決して改行とかスペースでかせいだわけではないとは思うんだけど(苦笑)。 |